解体が終わりすっきりとした状態のところ、墨出しを行いました。
解体するまではわからないのですが、ほとんどの住まいは実際の寸法と
図面上の寸法が少し違っています。
例えば、正方形に見える空間も、四隅の壁が必ずしも90度で合わさっているとは限りません。
また、一直線でつながっているように見える壁も、間仕切りを取ってみると
わずかな段差があったり、すこし斜めになっていたり、たわんでいたり。
そのため、解体した後には必ず、実際の寸法に合わせて床や壁や天井の位置を描く
“墨出し”という作業が必要になってきます。
ここで大切なのは「どこを優先するか」。
さきほど“寸法や角度は必ずしも図面通りではない”と書きましたが、
設計士はそのズレを想定したうえで墨出図を描き、現場に渡します。
そこには、どこのスペースを優先し、どこのスペースで調整するかが
きちんと明記されているわけです。
ぎりぎり冷蔵庫が収まる寸法で設計しているようなスペースは、絶対に図面通りの寸法を取り、
その分をほかの空間でスペースを調整するといった具合です。
空間ぎりぎりの寸法になるほど墨出しは大変なものになりますし、
仕上げの壁の厚みを数mm減らすなどの工夫が必要です。
天井高も同様に、ダクトの位置や移動を考えながら墨出ししていきます。
墨出し図には「ここは絶対2400mmほしい」などという優先順位が明記されいます。
どうしても墨出し図どおりにいかないときは、すぐに社内の設計士に連絡して解決策を考えます。
現場の職人さんは、ただ機械的に墨出し線を描くのではなく、
現場と図面に生じるわずかなズレを修正することが求められます。
社内の設計士とお客さまが何度も打合せを重ねて決めたプランですから
現場としては、その意図をきちんと守ることが何よりも大切なこと。
墨出しは地味な仕事のように思われがちですが、
そのしっかりとした土台をつくるための重要な下準備。
いくら仕上げを華やかにしても、土台がきちんと仕上がっていなければ、
うつくしい住まいにはなりません。
間仕切りの位置や開口の位置を床に印していくと、さまざまな課題が出てきて頭を悩ませますが、
完成したときにはそんな苦労が一切見えない、整然とした納まりに仕上げるのが現場の力です。