むかし、神田と御茶ノ水の間に万世橋という駅がありました。
明治の終わりに建てられた初代駅舎は辰野金吾の設計。
赤レンガ造りの立派な駅舎だったそうです。
その後駅舎は焼失し、簡素な建物となり
やがて乗客数の減少などの理由で万世橋駅は廃止となりました。
交通博物館として使用されていた駅の跡地が、
現在はJRの商業施設として生まれ変わっています。
それにともない、駅のホーム部分も2013年に70年ぶりにお目見えとなりました。
この建物でまず興味を惹かれるのは公開された1912年(明治45年)の創業時の階段と
駅縮小後の1935年(昭和10)年に建設された階段です。
明治の階段は来賓用として使用されていたこともあり、
壁のタイルは東京駅の赤レンガにも施されている覆輪目地という
当時でも高級な仕上げになっています。
このふっくらと盛り上がった目地を施工できる職人さんも
現在ではわずかだと聞いたことがあります。
隣接している昭和10年の階段に行くと一見同じような建物に見えますが
石造りであった階段はコンクリート造へと変わり、
タイルもよく見る“平目地”へと変化しています。
階段を上がると、以前のプラットホームがデッキとして解放されています。
ここに立つと線路との位置関係がよくわかります。
下の写真の奥に現在の中央線の線路が見えますが、
万世橋駅はこの線路に付随する場所に建てられていました。
駅舎なので当たり前といえばそうなのですが
1912年と2016年が確実につながっているのを視覚として捉えることができます。
100年前にもここで電車を待つ市井の人がいたのだと感じられる面白い場所でした。
設計担当:武藤